離人症の光学

死者の挨拶で夜がはじまる

死者の挨拶で夜がはじまる

収められている七つ目の文章が「離人症の光学」です。探偵小説の主人公あるいは作者は、生の実感を伴う世界と直接の接触を持たない空虚さとともに、傍観者としての全知の能力を手に入れると、丹生谷は指摘しています。ここから話は高村薫石原慎太郎の対談、阪神大震災島尾伸三三島由紀夫を経て町田康車谷長吉に行き着くのですが、そうした流れの奔放な印象とは違って、丹生谷はこの文章で執拗に離人症的なあり方を追跡しています。探偵小説の形式的問題について貴重な論点であるばかりでなく、それらといわゆる純文学との差異を鮮やかに切り出してもいると、私は思うのです。自信はないけど。メタリアル・フィクションと微妙に関係がありそうとも感じています。自信はないけど。だから読んでみて下さい。あと、冒頭のインタビューもすごいです。